2018年2月21日水曜日

「美しく生きたいと思います」女生徒 太宰治


 あらすじ
 父の死を受け入れようとしている少女の一日である。朝起きて学校に行くが、彼女は憂鬱に襲われている。それがゆえに見える人たちの卑しさを感じてしまうが、その彼らの卑しさの一面を自分も持っているのだと自覚してしまう。そして、女の人生は笑顔一つで決まる、などと言って嘆いて女に生まれたことを感傷していた。ただ、自然に触れ合っていると不意に父を感じて、自分が厭になった。そして、美しく生きたいと思いますと父に誓った。
家に帰るが、父の死んだことで気を張る母を見て、彼女は嫌気がさす。ただ、彼女も自分の意志を消して、社会に流されることを選ぶ。それを諦めと言って受け入れてしまうことで、平静を保てるが、ただ世間の中に埋もれていく。そして王子のいないシンデレラ姫になっていくのだ。


 精神的に楽になるからといって流されるのも含めて、自分の力量だ。
 少女は父によって社会から守られていたが、父の死から現実と対面することになった。彼女は触れ合う人の多くに不満を持っているが、彼らを変えられる力も意欲もない。そのままの現実を諦めて受け入れることで平静になり、長い時間を待てるようになり母のような大人になれると思っている。しかし、最後まで自分はシンデレラ姫のようだと、自分を特別な人間と謳っている
 シンデレラは舞踏会に挑戦していき、王子の目に留まった。意欲もなく努力もしない少女が、自らをシンデレラ姫と思っているのは、ただ単に環境が悪いと思っているからだ。


2018年2月13日火曜日

「ミユウズは女だから、彼らを自由に虜にするものは、男だけだ。」秋 芥川龍之介


あらすじ
 信子は女大学では才媛で知られていた。そして、彼女は文才のある俊吉と好い仲であった。誰もが二人は結婚するだろうと思われていたが、信子の妹である照子が俊吉を好きだったために彼女は彼を妹に譲り、信子は卒業と同時に商業高校卒の大阪で働く男と結婚をした。
 彼女の結婚生活は退屈なものであった。実利的な男との結婚生活は、下品ではないが、信子にとって息の詰まるものだった。
 久しぶりに東京に出て、妹たちの家へ訪れた時、俊吉と信子は昔のように気の合う会話ができて、お互いに心地が良かった。それを見ていた妹は次の日になり、泣きながら姉に謝った。信子は照子が幸せならいいというが、彼女のことを少し遠くに感じていた。
 用が終わり次第すぐに帰るから待っていろと信子は俊吉に命じられたが彼は帰ってこなかった。彼女は駅に向かう幌馬車の中から俊吉を見かけたが、声をかけずにすれ違った。
 そして彼女は秋の空を見ながら寂しさに駆られていた。

気持ちを共有できる人がいないと自覚ししたとき、人は寂しさを感じる。

 信子は照子の幸せを願い手伝っているが、照子は信子の幸せがわからず、できることは何もない。信子はその違いを感じて、照子との距離を感じたのだ。
 俊吉は信子の唯一の理解者であるが、信子が彼を求めるように彼は信子を求めていなかった。それは、信子が小説を書こうかと述べた時、彼は「ミユウズは女だから、彼らを自由に虜にするものは、男だけだ。」と述べたのと、」最終日に彼が遅くまで帰ってこなかったので読みとれる。彼女は幌馬車でそれを感じて、寂しさを感じたのだ。そして、人の少ない秋の街を眺めながらよりいっそう寂しさを感じたのだ。


2018年2月12日月曜日

「どうも鬼というものの執念の深いのには困ったものだ。」 桃太郎 芥川龍之介


あらすじ
天に建つ桃の木から、子を孕んだ実が人間界に落ちていった。その子は気性が荒く、彼が鬼退治を思いつくや否や、身内は彼を追い出すような形で鬼を退治に向かわせた。その際に彼は身内に黍団子を作らせた。
 道中、その匂いに惹かれた犬、サル、雉に半分だけ黍団子をやって、伴わせた。彼らの仲は悪く、けんかをするが、桃太郎が検閲する。それくらいには桃太郎は技量があった。
 鬼は元来、平和を愛する種族で、平穏無事に暮らしていた。人間界に伝わる鬼は、悪い奴だけなので、鬼が悪のイメージが付いていた。
 桃太郎が鬼ヶ島へついて、蹂躙した。彼は女も子供も無差別になぶり殺した。鬼はすぐに降参して、なぜ桃太郎が鬼征伐に来たのかと彼に尋ねると、桃太郎は「鬼退治を思い立ったら、犬、サル、雉がお供してきたからだ。」と述べるだけだった。鬼は彼に従順で財宝や子を彼に渡した。
 鬼退治をしたが、桃太郎はそれ以後平穏無事な生活を送れなかった。鬼からの恨みをかい、若い鬼たちは人を殺すことに喜びを感じた。桃太郎は何度も殺されそうになり、それを殺さずにやったのに、鬼が執念深いといって呆れた。
 桃太郎のような天才が天の桃の木にいくつも実って、その中で眠っている。

天才は人を魅了し、他人の気持ちがわからないため世界を蹂躙し、天災にもなりうる。
 桃太郎は天からの子である。彼は自由に生きた。そして、黍団子や巧みな話術で家来を虜にした。天才である彼にはそういった魅力があるのだ。しかし、相手を慮る気持ちがないため、悲惨なことさえできる。鬼に芽生えさせた人を殺す喜びは、世界を悲劇に向かわすだろう。このような天才は、天災ともいえるのだ。
  確固とした理由もなく酒呑童子を倒した頼朝も、その天才の一人ともいえるだろう。そして、次の天才もまた天から落ちてくるのだ。